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2015,02,03

[ 井上敬康氏インタヴュー 番外編 ]

刀っていくらするか知ってる?
びっくりするよ。

 アストックサロンでよく刀の話を皆さんがされるので(武道家の方々が多いのだ)、いつか刀屋さんへ足を運んでみたいと思っていた。刀屋などというと少々子どもっぽい、が。とにかくその私の思いが天に通じたのか、たまたま刀販売店の前を通ることとなり、色々とお話を伺ってきた。刀以外にも、絵画や帝国ホテル裏話も仕入れたので、番外編としてご紹介。

帝国ホテルにある「霜剣堂」にて一枚。この真剣は寛文・延宝頃を中心に活躍した鍛冶集団である「江戸法城寺一派」を代表する「橘正弘」の作品。購入を決めないとお値段は教えてもらえなかった。

先にゼロの数を数えてしまう、私の邪心

インタヴューをはじめる前、私は井上さんのお知り合いの池田清明先生という方の油絵個展へ一緒に連れて行ってもらった。三越日本橋本店・6階美術フロア、着いてすぐに値札のゼロの数を数える自分がちょっと恥ずかしいなと思っていたら、横で井上さんも数えていた(笑)エスカレーター横に飾ってある外国人作家の絵が2000万、ひゃー!

良い絵と一緒にいると自然と良い気分になる

池田先生の展示場へ到着。気持ちが一気に豊かになる。ああ、良い絵に出会ったんだなと感じた。どんな方がこの絵を描くのだろうと想像していると、なんと池田先生ご本人がいらっしゃり、少しの間、一緒に絵を見ながらお話を伺うことができた。

 

池田先生の人物画は、なんと言うのだろう、ついついカンバスに手を伸ばして触りたくなるような、血が

通った温かい絵なのだ。こんな絵を私も描けたらなぁというより、「私を描いてください!」とお願いしたかった。

人物画って相当難しいらしい...

絵画というのは何よりも人物画が難しいんだそう。物・植物・生物などは多少の幅は許されるらしいが、人物画でそれをやると素人でも「これは人間ではない」と明らかに分かってしまう。花の絵を見ながら「これは3時間で描いたよ」と言う池田先生も、「人物画だと1ヶ月以上はかけるね。ものすごい集中で目の奥が痛くなりますよ。」とおっしゃっていた。

 

大作を描き上げたあとは、休息のつもりで小さな絵を描くそうだ。値段のことを言うのはなんともちっぽけなのだが、その3時間で描きあげたと言うB5用紙ほどのサイズの作品が、、ずばり数十万。ひょえ〜!と心の中で思っていると、その声が聞こえてしまったのか「とは言ってもね、この3時間の前には数十年という時間をかけているからね」とにっこり。かの有名なピカソも同じようなことを言っていたらしいが、確かに、ここまで描けるようになるには1年や2年なんかじゃ到底追いつけない。

素人には分からない影トーク

こんな話もあった。「これはいつくらい(何時頃)に描かれたんですか?」とか「この描かれてある窓は北窓ですか?」など、私が考えもしなかったことを、井上さんがサラッと聞く。これは影や光の差し込み具合のことを話しているのだ。大体どんな絵にも影がある。影がないとリアリティもない。3時間で描いたと言っても、描いている間に影はどんどん動くのだ。

 

 

団子:じゃあ急いで描かないと。のんびりしていられませんね。もしくは影の位置をざっくり決めてしまうとか。

 

池田先生:違うんだよ、それが面白いんだ。影が動くから新鮮さがあるんだよ。

 

 

うおおお〜

窓一つをとっても興味深いもので、北窓と南窓から入ってくる光の色も違えば、動きも違うそうだ。池田先生、井上さんともに南窓が好みらしいが、窓だけでも絵の雰囲気が随分変わることを知った。

 

そのあとも色の作り方なんかをお二人が話されていて、横で聞いている私はどんどん絵の世界へと惹き込まれていく。知らない世界を1人で探検するのも良いけれど、詳しい人に案内してもらうのも、これまた良いものだ。

日本人が日本の文化を安くみてるんだよ!

個展を後にし、インタヴューへ移る。

その中で「もし今お金が降ってきたら、刀を買おうかな」という話になったのだが、刀の相場とは一体いくらなのか、私には全く見当もつかない。それでも数百万とか、日本の誇る伝統文化なのだから、それなりにするんだろうなと思い、「やっぱり高いんですか?」と聞くと、井上さんが「安いんだよ!日本人が日本の文化を安くみてるんだよ!」と、キレッキレに熱く答えた。

 

現代の日本人は自分たちの文化の凄さを全く分かっておらず、今や刀は外国人に買い荒らされている状況なんだそう。その日私が見ていた絵だけでも、数百万数千万単位だったのに対し、刀はなんと100万円以下で買えてしまう。もちろんピンキリだが。驚愕!

帝国ホテルのエントランスすぐにある生花のオブジェ。ピンぼけ。ものすごい本数の薔薇

帝国ホテルを探検、裏話ゲット

インタヴューも半分を終えたころ、私(団子)が普段行かないところへ行きましょうと、帝国ホテルを探検しに行くことになった。実は井上さん、帝国ホテルのウェイターとして働いていたことがあるんだそう。当時の裏話をこっそりを教えてもらった。

 

「この下にスタッフの食堂があってさ、帝国ホテルのスタッフだから良いもの食べてると思うでしょ?それが違ったんだよね(笑)いつもおかずは一品だけでさ、天下の帝国ホテルもこんなものかと思ってたよ。もちろんおもてなしは一流だけどね。まさか毎日一品だとは思わないでしょ(笑)でも今はどうか知らないよ。あくまで僕が働いていた頃の話ね。」

こんなところに刀ショップが !

帝国探検はその後も続き、地下のショップフロアを歩いていると、なんと、刀販売店に遭遇する。これには

井上さんも少々驚きだったようで、「天のお導きだね、入りましょう」と、私は人生初の刀屋さんへ足を踏み入れた。

 

店員さんのことを悪く言うわけではないが、きっと私一人で入店していたら、軽くあしらわれていたに違いない。そりゃそうだろう、井上さんと一緒でよかった。

 

こじんまりとした店内には皇族が所有していた刀や、鎌倉時代の刀などが、ガラス1枚を挟んで私の目の前に並んでいる。なんとも不思議な気持ちだった。だって、“良い国作ろう鎌倉幕府”の時代に産まれた刀が、すぐ、そこ、にあるのだ。しかも、値札を見ていると大体が30~60万ほどでお手頃価格。「ほんとだ...安い。」と思わず口に出てしまう。さすがに鎌倉なんかはもう少し高いようだったが、そのレベルのものには値札がついておらず、店員さんもはっきり価格を言わないのだ。

店員さんってやっぱりすごい

数十万を安いと言っている私はもちろん狂っていた。普段なら5千円がすごく高いんだから。そして面白いことに、横にいた井上さんも「買おうかな〜」と完全に狂い始めていた。高いものを見せておいて安いものを勧めてくる店員さんの圧勝。しかも私たちは数千万の絵を見たあとだったものだから、余計だった。「これが人間の心理というやつですよ」、と井上さんは笑っていた。

真剣が欲しい方、買うなら今ですよ!

井上:アベノミクスで色々値段が上がってますけど、刀はどんなかんじですかね?もう上がってる?

 

店員:いや、まだなんです。これからですよ。

 

井上:そうか、じゃあもう少し考える時間があるね。

 

店員:いえ、今買わないともう遅いですよ。値段が上がるのを知っている方々がどんどん購入されていますので、良い刀はすぐになくなりますよ。

 

団子:そんなに刀って売れるものなんですか?

 

店員:ええ、今日はもう3本売れてますよ。すべて外国の方ですけどね。

 

団子:3本も!!!

 

井上:ほら、言った通りでしょ。

 

店員:外国の方のほうが見る目がありますよ。日本人は自国の文化の凄さというものに気付いてないんですよね。良い刀はどんどん海外へ流れ出ていっています。

井上さんがおっしゃっていたことと同じことを店員さんも言っている。

ああ、日本の文化よ、こんなにも安くみていてごめんなさい。これから勉強するからね。そして値段が上がる前に、私も1本買っておきたい。武士の血が騒ぐのか、それとも店員さんの術中に今だかかっているのか、、もし購入した際はここで報告したいと思う。

小判2枚を潰してできた鍔。ゴージャス。

最後にお詫びを

店員さんをやり手のヒール役にしてしまったが、実際には和気藹々と、たくさんのことを教えてくださった。スーツをビシっと着こなし、目は鋭く、話し方は丁寧、お客には優しく、部下には厳しく、まるで刀のようなお人だったのだ。それにしても、日本の文化は奥が深いなぁ。

 

アストックサロンでは「日本文化を見直す」というのも1つの大きなテーマ。みなさま、ぜひお気軽にいらして下さいね。

※前回はこちら

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